米国研究製薬工業協会(PhRMA)は、「がんゲノムプロファイリング検査の保険償還にかかる制限の解決に向けた提言」を以下の通りまとめました。
2023年6月吉日
厚生労働省
保険局長 伊原和人 殿
医政局長 榎本健太郎 殿
健康局長 佐原康之 殿
PhRMA(米国研究製薬工業協会)
日本における医薬品産業の発展を通じて革新的医薬品を創出し、日本および世界の創薬イノベーションをいち早く患者さんに届けるため、現在のがんゲノムプロファイリング検査(以下、CGP検査)の保険償還にかかる制限の解決に向け提言を行う。
本邦において、国家戦略として全ゲノム解析等を推進するべく令和元年12月20日にがんや難病領域の『全ゲノム解析等実行計画(第1版)』が策定された。第4期がん対策推進基本計画(令和5年3月28日閣議決定)では、国が取り組むべき施策として、がんゲノム医療をより一層推進する観点から、がんゲノム医療中核拠点病院等を中心とした医療提供体制の整備等を引き続き推進するとともに、関係学会等と連携し、がん遺伝子パネル検査等の更なる有効性に係る科学的根拠の収集に引き続き取り組むことが示された。さらに、「全ゲノム解析等実行計画 2022」を着実に進め、ゲノム情報等による不利益が生じないよう留意しつつ、新たな予防・早期発見法等の開発を含めた患者還元や、がんや難病に係る研究・創薬への利活用等を推進すると記載されている。なお、全ゲノム解析等実行計画2022では、全ゲノム解析等の解析結果の分析妥当性は現段階で未知数である点を踏まえ、既に臨床的有用性が確認されているパネル検査を活用する必要がある点が指摘されている。
一方、現在のがんゲノムプロファイリング検査に関しては保険償還上、複数の課題が存在している。2022年度診療報酬改定において、患者さんがエキスパートパネルの結果を聞く前にお亡くなりになってしまうことで医療機関の持ち出しが生じる課題については、D006-19 がんゲノムプロファイリング検査の点数の見直しと、B011-5 がんゲノムプロファイリング評価提供料の新設によって解決されたものの、依然として、本検査の実施時期が標準治療後に制限されているため、患者さん個々のゲノムプロファイルに合った薬剤への早期のアクセスが十分に確保できていない状況であることが学会等からも指摘されている。このような状況下で早期に保険償還上の課題が解決されない場合、患者さんの新薬へのアクセスに支障が生じる可能性がある。
当会は、CGP検査にかかる保険償還上の制限が改善されることで、我が国のがんゲノム医療の推進とともに、患者一人ひとりに最適な治療を提供すべく、必要な患者さんが適切なタイミングでCGP検査を受けられる環境の整備が必要と考える。真の個別化医療の実現という目標達成のため、下記の通り課題意識と提言を表明する。
<提言内容>
現在のCGP検査に関する留意事項は発出時より更新されていないため、現在発出されている次世代シークエンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づくがん診療ガイダンス改定 第2.1版(日本臨床腫瘍学会・日本癌治療学会・日本癌学会、2020年5月15日)の推奨と留意事項に乖離が生じてしまっている。それによって、がんの進行状況、患者さんの容態等により最適な治療を受ける機会を逸してしまうことが懸念される。さらには、先進医療B制度によって行われた臨床試験において標準治療前からCGP検査を行う臨床的有用性が示されている。また、標準治療前からCGP検査を行うことで、臨床的アウトカムの向上が期待される一方で、平均医療費の増分は限定的であることが報告されている。以上より、現在の保険償還では患者さんが適切なタイミングで最適な治療の機会を逸されうるため、3学会ガイダンスの更新や新たなエビデンスといった外部環境の変化を踏まえ、CGP検査の標準治療前の使用を考慮できることが望ましいと考える。
<根拠>
<提言内容>
本邦において、保険償還上CGP検査は生涯で一度しか使用することが出来ない。組織検体、血漿検体それぞれの利点と注意点を踏まえた適切な検査の実施ができないため、患者さんに不利益が生じる可能性がある。例えば、同一の患者さんでも、Heterogeneity(不均一性)により、どちらかの検体だけでは変異を捉えられない場合や、経過とともにClonal Evolution(腫瘍内の異なるサブクローンが時間の経過とともに変化する過程)の検討が必要な癌腫があり、複数回の検査が必要になる場合がある。組織検体の検査と血漿検体の検査を同じ患者に実施しても個々の患者の状態により、どちらか一方でしか検出されない変異もあるため、相互補完的に使用する必要がある。以上より、同一の患者に検体種にかかわらず必要に応じて複数回の検査の使用を考慮できることが望ましいと考える。
<根拠>
<提言内容>
医薬品の適応判定補助を使用目的として有するCGP検査をCDxとして承認された癌腫に対し標準治療前に用いた場合、検査費用として保険請求可能な点数は各々の適応のコンパニオン診断部分に該当するD004-2、D006-18、D006-27に限定される。そのため、がんゲノムプロファイリング検査のCDx目的の使用で算定可能な保険償還額と医療機関が検査機関に支払う金額との乖離により医療機関の財政上の負担が生じることで患者さんの適切な医療へのアクセスが阻害されている。なお、本課題に関しては、課題①を解決することで同時に解消されうるものと考える。
<根拠>
今回の提言は、前回の提言(がんゲノムプロファイリング検査の保険償還にかかる制限の解決に向けた提言、2021年7月13日)以降のエビデンス等、外部環境の変化を反映し、新たに表明するものである。①,③の課題については既に言及をしたが、②の課題については、学会からの要望等を踏まえ、今回の提言で新たに追加している。
今後、グローバルでは次世代シークエンサーを用いたプロファイリング検査と医薬品開発の共同開発が加速することに加え、癌腫を一つに限定せず特定の遺伝子変異等を有する患者さんを対象とした治験が米国において複数実施されていることから、臓器横断的な効能・効果の薬事承認を受ける医薬品の増加が見込まれる。さらに、米国では日常の診療において、がんゲノムプロファイリングは特定の状況下で公的医療保険(メディケア)によって保険償還されている。また、ゲノム医療の進展や個別化医療の推進等により、希少フラクションを捉えるため網羅的に遺伝子変異を検出する臨床的意義が高まっている。このような状況下、我が国における保険償還上の課題が早期に解決されない場合、患者さんの新薬へのアクセスに支障が生じる可能性がある。それだけでなく、製造販売後における研究開発投資の回収においても他国に比べ不利な市場となると考えられ、結果将来的に日本が国際共同臨床試験に参加できなくなることで我が国に革新的かつ臨床上意義のある医薬品が入ってこないことによる新たなドラッグラグ・ドラッグロスが生じることが懸念される。このようなドラッグラグの問題については、医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会において、各識者からも懸念が示されているため、日本での医薬品開発がより促進される環境整備が必要であると考える。
当会は、がんゲノムプロファイリング検査にかかる制限が改善されることで、引き続き我が国が国際共同臨床試験に参画でき、他国と遅滞なく薬事承認/保険適用されることでイノベーションの推進とともに、国民に提供するがん医療の質のさらなる向上につながると考える。
以上
米国研究製薬工業協会(PhRMA)Japan について (http://www.phrma-jp.org/)
PhRMAの日本オフィスは1987年1月の開設以来、在日加盟企業を代表し様々な活動を積極的に展開しています。行政、医療政策担当者、医師をはじめとする医療従事者、報道関係者、そして患者団体等、関係するすべての団体と直接対話を重視した活動を推進しています。PhRMAは日本製薬団体連合会、日本製薬工業協会、欧州製薬団体連合会と協力して活動を展開しています。
米国研究製薬工業協会 PhRMA(The Pharmaceutical Research and Manufacturers of America)について (http://www.phrma-jp.org/)
米国研究製薬工業協会(PhRMA)は、1958年に発足した、米国で事業を行っている主要な研究開発志向型製薬企業とバイオテクノロジー企業を代表する団体です。患者の方々がより長く、健康で、活動的な人生を送れるよう、革新的な医薬品の推進に取り組んでいます。
イノベーションの促進、臨床試験の期間短縮、慢性疾患の分野を中心とした予防医療の推進、政府に対する医療制度改革への提言など、様々な活動を行っています。
当協会の本部は米国ワシントンD.C.にあります。