2020年5月22日
米国研究製薬工業協会
ワクチンの研究開発を促進する5つの進化について
※当資料は、America’s Biopharmaceutical Companies®のWebサイトに投稿された記事を日本で抄訳したものです。
近代の歴史の中でワクチンは、多くの感染症を予防し、様々な地域で壊滅的な状況を回避・終結させるなど、公衆衛生上、最も意義のある進化をもたらしてきました。世界各地で新型コロナウイルス感染症への取り組みが続けられる中、人々の健康に対するワクチンの効果が、極めて重要な医療用ツールとして再び脚光を浴びています。
新型コロナウイルスに対する安全かつ有効なワクチンを特定・開発するバイオ医薬品研究者の取り組みにおいて、その開発スピードの速さは多くの人々の注目を集めています。ある研究開発型医薬品企業が特定したワクチン候補の臨床試験は、感染症に関する最初の報告からわずか3カ月以内に開始されました。
この迅速な進展の背景にあるのが、免疫システムの仕組みに関する技術と理解の進歩です。
これによって私たちは、過去の事例に比べて現在のパンデミックにより速やかに対応できるようになりました。
最近成し遂げられた進化のうち、ワクチンの研究開発促進に寄与しているものとしては、以下の5つが挙げられます:
より迅速なシーケンス:
科学者は、新型ウイルスのエビデンスを検知した後に、問題のウイルスを識別・分離します。分離後は新型ウイルスに特有の遺伝子配列の解析が可能となり、ここで得られた情報は、診断・検査、あるいはワクチンや治療薬の候補に関する計画立案に役立てられます。2003年に感染が拡大したSARSコロナウイルスの場合、当時利用可能な全てのツールを駆使しても明確な遺伝子配列情報は発見から数カ月を要しました。しかしながらそれ以降、遺伝子組み換え技術の劇的な改善により、新型コロナウイルス感染症の原因となっているウイルスの遺伝子配列の情報は、最初の症例報告からわずか2週間以内で公表されています。
人工合成:
ウイルスを調べるためには、かつては、罹患患者から抽出した病原体の実際のサンプルが必要でした。現在では技術の進歩により、ウイルス遺伝物質を化学合成することができるようになったため、ウイルスの特性をより早い段階から、そして迅速に研究できるようになっています。
人工知能(AI):
新薬開発の際には、化合物や新薬の候補を数千種類以上の中から選別した上で、可能性のある数種類を特定しなければなりません。これは時として、信じがたいほどに退屈な作業となります。ごく最近になって候補の選別と分析にAIが使用されるようになり、AI学習により人間が行うよりずっと迅速にワクチン開発が行えるようになりました。技術の進歩に伴い、AIがワクチン候補の特定を行うスピードもより速くなる可能性が高まっています。
mRNAワクチン:
従来のワクチンは、弱毒化または不活化した病原体、もしくは部分的な遺伝コードなど病原体の一部を人体に接種し、人体が自ら病原体を認識し免疫を作ることができるようにするものです。免疫システムが免疫を作るには病原体の一部である抗原(細菌またはウイルスの表面にあるタンパク質であることが多い)を認識することを学習することによって異物であることが分かるようになっています。mRNAワクチンは、ウイルス物質を接種する代わりに、抗原を作らせるための遺伝情報を提供します。この情報を得て人体が抗原の産生を開始すると、免疫システムがこれを認識し、免疫が作られるという仕組みです。mRNAワクチンは、かつてはワクチンによる予防が困難であった疾病への効果が期待されており、従来のワクチンより簡単に製造できます。
DNAワクチン:
特定の抗原を作製するための遺伝情報を伝えるという点ではmRNAワクチンと似ていますが、加えて、DNAが正しい細胞に侵入するよう指示を与えて手助けしたり、あるいは免疫反応を活性化したりする成分も含まれています。従来のワクチンより簡単に製造できるという点もmRNAワクチンと同様です。
現時点で新型コロナウイルス感染症の予防に効果があるとして承認されているワクチンは存在しませんが、研究開発型医薬品企業各社がそれぞれのアプローチにより、エボラ出血熱やSARSのような疾病との闘いによって長年にわたり培った科学的専門知識を駆使し、安全で有効なワクチンの開発に全速力で取り組んでいます。
新型コロナウイルス感染症の診断・治療・予防の一助となるソリューションの開発を目的として現在行われている取り組みについてより詳しくは、こちらをご覧ください。
【日本】 http://www.phrma-jp.org/coronavirus/
【米国(英語のみ)】 https://phrma.org/coronavirus
当資料の原文は下記をご覧ください。(英語のみ)
https://innovation.org/diseases/strategies/vaccines/recent-developments-contributing-to-progress-in-vaccine-research